富田富士也著『「虐待」は愛からおこる』(河出書房新社)〜自分のエゴを愛情と混同した親たちの「見えない虐待」という視点。

「虐待」は愛からおこる
 ぼくが取材協力をした本が発売されました。教育カウンセラーである富田さんの著書です。いくつか論点はあるのですが、ぼくがもっとも時代を感じたのは第二章の「高学歴家庭の『見えない虐待』」。
 昨年6月、奈良の医師家庭で起きた、長男による母子放火殺人事件はまだ記憶に新しいところです。「教育熱心な」親による「心理的虐待」は、子どもたちの身体ではなく、心に傷をつけるものなので、事件化するまで表面化しづらい。奈良の事件のように、医師という肩書きが、傍目には「教育熱心」に見えてしまうし、目に見える傷もないため、児童相談所もなかなか介入しにくいのです(P54に掲載)。 
 しかも親自身が自分のエゴを愛情と思い込んでいて、「虐待」の自覚がなく、事件にならない限り、長期化してしまいやすい。そんな二重、三重の意味で、世の中から隠されてしまう難点があり、だからこそ深刻なのです。 
 この本にも、大手新聞社や中央省庁、裁判官や企業経営者、あるいは元スチュワーデスなどの親たちの「熱心な子育て」よって、成績優秀な「いい子」が心を病んでしまう事例が紹介されています。職場の成果主義を、さまざまな形で子育てにまで持ち込んでしまった結末だと、富田さんは書かれています。
 一方で、ビジネス系出版社が相次いで教育雑誌を立ち上げ、ビジネスマンのお父さんが好きそうな成果主義式の「理想の子育て」を喧伝しています。「見えない虐待」の種は今日も、もっともらしい顔つきで広くまかれつづけているのです。もし興味がおありなら、一度手にとってみて下さい。