日高山脈を望みながら 

 ジャガイモの種芋が植えられた畑に、マルチとよばれるビニールをかけた。長さ100m弱を1本と約50m1本で、合計150mほどか。畑とビニールの隙間が空くと、強風で飛ばされてしまうので、大きな石でビニールを押さえながら、周囲の土をかけ、ビニールの両端を土で踏み固める。2人一組になり、できるだけビニールがピンと張るようにテンポよく作業を進めるのがコツ。中腰姿勢で、しかも慣れない作業のせいか、腰の上あたりが次第に張ってくる。
 大地を踏みしめながら働く。そう書くのは簡単だが、実際にはけっこう消耗した。少し遅めの昼食が、たまらなく美味かったことは言うまでもない。同時に、お百姓さんの仕事には嘘が少なくていいとあらためて思う。仕事の途中で顔をあげると、まだ雪をかぶった日高山脈が望める。汗をかいた顔や腕に5月の涼しい風が心地よかった。
 最終日の土曜日の夕方、日高山脈を右や左に見ながら、人も車もあまり見かけない道を走ってみた。ジョギングシューズを持参していたのだけれど、遅くまで働いている人たちもいて、少々気がひけていたせいだ。北海道の道は本当に長い直線がつづく。走っていると、聞こえるのは鳥の声と風の音、そして自分の吐息だけ。日高山脈を横目に、人家もまばらで、アップダウンのある直線を進む。圧倒的な孤独感が新鮮で、最高のジョギングだった。
 才能がない分、生活することと書くことをできるだけ近づけたい。人とは違う場所と時間を生きて書く。そこにしか自分の活路はない。生活の中で伸びる「雑草」を引っこ抜いて、もっとシンプルになりたい。