毛穴をひらく からだをひらく 心をひらく

 遅くおきて朝昼兼用の食事をとる前に、渋る奥さんを誘ってウォーキングに出る。遊歩道には、色とりどりの紫陽花が咲き誇っていてたのしい。近づく夏の暑苦しさを、束の間忘れさせてくれるような涼しげな佇まい。涼しい風と呼応する小さな滝めいても見える。
 そうかと思うと、くちなしの白い花が、自ら顔の下で両手をひろげるような格好で咲いていた。外側の花弁から順番に開いていくとは知らなかった。鼻を近づけると甘いバニラ香が、起きたての心と身体を甘美にみたす。いい1日になりそうな予感がする。
 腹式呼吸しながら、上体は少し前傾させ、歩幅は少し広めにゆっくりと進むと、全身がしだいに覚醒していく。近くの公園にたどりつくと、高さ10m超のプラタナスが先週以上ににょきにょきと青葉をしげらせ、グラマラスな緑の屋根のように公園の一部を覆っている。人工の滝が放つマイナスイオンをあびつつ、プラタナスの緑に目を休めながら、体操をして筋肉をのばす。ふたたび深呼吸しながら、同時に毛穴もひらく。深い呼吸を繰り返すほど、身体の柔軟度はたかまっていく。
 体操を終えてから、公園内にある小学校の運動場に降りて、梯子(はしご)を三角に折り曲げたような格好の運動施設にぶら下がって背骨をのばしていると、小学校1、2年生風の女の子がニコニコしながら寄ってきた。「これで遊ぶの?」と聞いてみたが、彼女はニコニコしているばかりで答えない。いくらなんでも40代のオッサンが、子どもが遊ぶ邪魔をしては情けないと、そこから離れて隣のよじ登り棒へ行くと、今度は彼女より年下の男の子がニコニコして寄ってきた。
「よし、オジサンが上ってみるよ」と彼に言って飛びついてみたが、少しも登れずじまい。すると、さっきの女の子がふたたび近寄って来て、僕の目の前でスルスルとその棒を上ってみせてくれた。「おお、すごい上手だねぇ」と感心すると、「えへへへ」と笑う彼女。そこへ小柄な男性が現れて「どうも、すみません」とぼくらに向かって会釈をしてみせた。なぁんだ、お父さんと一緒の姉弟か。でも、なんでお父さんと遊ばずに、2人ともおれに近づいてくるんだよ。
 しばらくしてグランドを後にすると、さっきの女の子がジャングルジムのてっぺんから、ぼくに向かって右手を大きく振りながら言った。
「大きな人間さん、さようならぁ」
 ・・・おれはチェ・ホンマンかいと思いながら、
「さようならぁ、小さな人間さ〜ん」
 と右手を振りながら答えておいた。さては、精神年齢の近さを見抜かれたか。