足立紀尚『プロフェッショナルな修理』〜事実をもって心を揺さぶる 

 着物や仏壇を「洗濯」する人たちがいるのをご存知だろうか?
 着物なら、あらゆる糸を抜き、ひとつの反物にして、汚れを落としシミなどを抜き、新たに色を加え、文字通り洗濯をして、ふたたび糸を通して仕上げる。仏壇も、釘一本のレベルまで解体し、きれいな部品に取り替えて、ふたたび組み立て直す。組み立て直す作業が、通称「お洗濯」と呼ばれている。
 言い換えれば、着物も仏壇も、「洗濯」を前提として作られている。もう、これらの事実だけでも「へぇ〜」3つ、4つ分だろう。
 逆に、ぼくの身の回りにあるもので、そんな再使用を前提に作られているものが、どれだけあるのか。そう考えると、たちまち暗い気分になる。再使用はおろか、そもそもマンションからコロッケまで、どんな材料が、どう使われているかもわからない。そして妥当な、もしくは割安な値段とささやかな情報で買う買わないを決めて、暮らしている。それはケータイでテレビが観られたり、カードで電車の改札が通れる「便利さ」以上に、貧しい。いや、ビンボー臭いと思う。
 足立さんは、それぞれの職人たちの人物像には執着せず、そんなモノづくりの具体的事実を淡々と積み重ねることで、読む人の心を揺さぶってくる。プロフェッショナルな修辞である。