雨中の美術館めぐり(3)〜深澤直人ディレクション「チョコレート」(東京ミッドタウン内 21_21デザインサイト) 

rosa412007-07-17

 モハメド・ウヘドラオゴ(17歳)という黒人の少年、彼の約2m大のカラー写真が目の前にある。
 着古して汚れた半袖シャツとズボン姿。その両腕は、潰しかけのカカオの実を抱えていて、汚れている。作業中に撮影したものと思われる。キャプションには、「彼の父は3haの農園の所有者だが、彼の夢は運転手になること」の一文。そしてモハメド君の以下のコメントが添えられている。
「チョコレートは好きだけど、でもカカオ労働者には高すぎて買えないんだ」
 彼の写真は、同デザインサイトの壁一面に展示されたカカオ労働者たちの一枚。カカオ豆の売値は1キロ1・5ドル。カカオ豆の世界最大産出国コートジボアール共和国に暮らす、モハメド君らの日給は1ドル。ぼくはしばらく動けずに彼と真正面で向き合うことになった。
 こういう真っ直ぐで簡潔な表現は心にズドンとくる。しかもモハメド君らの仕事場は、同国の内戦で、国連とフランスの平和維持軍によって包囲されているため、そこから一歩も外に出られないという現実がある。
 だが、この作品の憎い点は、さらにもうひと捻(ひね)りが加えられていること。
 モハメド君らカカオ労働者たちは、とてもタフで人間臭い表情をしている。東京の街をさまよう精気なき人たちよりずっと、「生きている」顔つきをしていて、中半端な「かわいそうね」を跳ね返す強度をもつ。だから、ぼくらがよく知っているはずの「チョコレート」の向こう側にいる彼らと向き合いながら、観る側はなんとも落ち着かない気持ちにさせられてしまう。見下ろしているつもりが、じつは見下ろされているような・・・、その揺れが魅力的な行間をこの作品に与えている。(つづく)