雨中の美術館めぐり(4)21_21デザインサイト〜関係性に形を与える 

 カカオ労働者の写真とともに、ハッとさせられたのが、今回の「チョコレート」展(今月29日まで)のディレクションを担当した深澤直人さんの「チョコレート色と白色の横断歩道」。いわゆる濃いグレーのアスファルト部分がチョコレート色。同サイト地下1階にある吹き抜けの、広さ20畳ほどの中庭部分一面である。
 面白いもので、その色が替わるだけで、横断歩道が少々甘ったるく見えたり、空々しく思えてしまう。それは「チョコレート色」が、ぼくの中で「チョコレート」そのものと分かちがたく結びついているせいだ。もっと言えば、僕の中でチョコレート色がチョコレートを侵食し、はみ出している。だから横断歩道が少し甘そうに見えたり、リアリティを欠いてしまう。ただ、色だけの話なのにだ。
 そんな僕の揺らぎにこそ、チョコレートもしくはチョコレート色と、僕との関係性(むすびつき)がある。同時に、ぼくの印象や認識の硬直ぶり(融通の効かなさ)や、底の浅さが露になる。何かを見ているようで見ていない反面、ちょくちょく見かけるものに妙に洗脳されやすい自分に気づく。いい加減な僕が作品にひんむかれてしまう。
 たとえば、薄い紫色の郵便ポストを見たら、なんか気持ち悪く感じる人が多いだろう。
 そのとき初めて、ポストと赤色が自分の認識の中でいかに強固に結びついているのかがわかる。イメージはあくまでイメージのはずなのに、無意識のうちに認識に深く広く根を張っていて、何食わぬ顔でひょいっと本質にすり替わっている。
 そこまでふくめて深澤さんの作品は喚起し、ぼくに突きつけてくる。
 デザインというと、一般的には建築や家具、あるいはファッションと連想しがち。だが、21_21デザインサイトが企てようとしているのは、そういうレディメイドで痩せっぽちな「デザイン」観を打破すること。打破しながら新たに創りだすこと。
 デザインとは、さまざまな「関係性」に形を与える作業に他ならないからだ。カカオ労働者の写真や、チョコレート色と白色の横断歩道が、この場所に作品として展示されている理由がそこにある。(おわり)