見えない身体(4)〜生活改善 

 最初の治療後、いくつか取り組んだことがある。
 まず、仕事場の椅子をリビングの固い椅子に変えた。室内でスリッパを止めて裸足で歩くようにもした。H氏から、リクライニング機能のついた椅子や、身体が沈むようなソファほど腰痛に悪いものはない、そう聞いたからだ。
 これは後日、甲府出張時に痛感させられた。JRの特急列車の背もたれはきちんと奥まで腰かければ、1時間座っていても違和感はない。ところが、駅前から20分ほど乗ったタクシーの後部座席は、5分もたつと右腰からお尻にかけて張りがでて、疲れてくる。たまらず、助手席裏の手すりに両手をかけて前傾姿勢をとり、腰を伸ばさずにはいられなかった。健康なときには気づくことがなかった感覚だ。
 一方、スリッパで歩くと、あまり踵(かかと)で着地する必要がない。というか、すり足になって、まず踵から着地してそこに踏み込んで体重をかけていく歩き方が難しい。
 しかし、スリッパはともなく、固い椅子でも30分もたつと、やはり右腰がしびれてくる。へっぴり腰から、どうにか歩けるようになったのも束の間、今度は座り続ける難しさに直面。仕方ないので、机に本を10冊近く積み上げ、パソコンのキーボードをその上に載せて立ちながら使えるスタイルに変えてみる。しかし、立ちながら入力するのもやはり疲れる。
 立つこと、歩くこと、座ること。何も考えることなくやってきたことのひとつひとつが、これほど微妙なバランスが必要な動きだとは思いもしなかった。