見えない身体(5)〜意識が筋肉を傷めるという悪循環 

 ズドーンという感覚が右腰に拡がる。
 何度目かの針を打たれたとき、初めてそんな衝撃をおぼえた。すると不思議なことがおこる。筋肉がしこっていて、Hさんが何度揉んでくれてもなかなかほぐれなかった部分が、嘘みたいに柔らかくなった。2度目の通院でのことだ。針が体質に合うんでしょうねぇ、Hさんがそう言った。
「手で揉んでも届かない奥の方の筋肉には、針がいいんですよ。過度に緊張して硬くなっている筋肉に刺激を与えることで、その緊張がゆるむんです」
 そういうメカニズムらしい。パンパンに膨らんだ風船に針を刺して割るような感覚かなと思う。その後もなんどか針を打ってもらったが、ズドーンという感覚は1回きりだった。
 一方、前回と違い、Hさんに揉んでもらうと、今度は右足より左足がしびれて痛んだ。最初のときは右足を意識しすぎるあまり、過緊張状態でカチカチだったが、今度は左足のふくらはぎの裏側や脛がしびれて痛い。無意識に右腰をかばい左足に重心をかけ過ぎているせいらしい。
 すべては、右腰に激痛が走った日曜の出来事が、ぼくの意識下でトラウマになり、ついつい身体がその痛みを避けるように動き、それによってへっぴり腰になってしまうことが度々あった。頭では意識すまいと思っても、身体のコントロ―ルがきかず、自然と体重のかけ方がアンバランスになり、そのせいで筋肉を傷めてしまうという悪循環が、ぼくの右腰周辺の筋肉を硬くしていた。自分の身体を思うようにコントロ―ルできない焦燥感と苛立ち。まさに、病いは気からだ。
 この間、ぼくの意識は、自分の身体を迷宮(ラビリンス)みたいにさまよっていたことになる。