お気に入り本棚〜アンビバレンツな心の揺れと向き合う

 年末に本棚の整理をしていて、かなり本棚が空いた。それで、お気に入り本棚を一列つくってみた。ふと気が向いたときに、取り出して繰り返し読みうるだろう本を、適当に選んで集めた。昨夜、寝る前にその棚から無意識に抜き取ったのは、書家・井上有一著『新編日々の絶筆』と、岡本太郎著『強く生きる言葉』。
 これが結構おもしろい。任意に2冊選ぶ点がミソ。たとえば、井上の本を適当にめくると、以下のフレーズが目に飛び込んできた。

 若い頃はパターンによりかかって努力をした場合が多い。今見るとバカバカしい。一種の安心感の上の努力であった。今はよりかかるなにものもないぎりぎりのところで書かなければならないと考えている。とりすました安定感こそ唾棄すべきものである。

 2日の日誌で、ムンク三部作のスタイルへの憧れについて書いた身からすると、月とスッポンのような世界が一気に開ける。「書いているうちに、どうしてもパターンができる」と書く井上は、「それをはやいうちに壊さなければならぬ」とつづける。・・・う・ら・や・ま・し・い。
 
 まるで、目指す世界が違いすぎると落ち込みそうになる反面、そのはるかな遠さゆえに、ぼくはその高みを憧れることができる、とも思いなおす。一方で、「そういえば、こんなフレーズ読んだなぁ」という記憶もよみがえる。そんなアンビバレンツな心の揺れとこそ、楽しげに向き合っている自分がいる。好きなものには、時間の経過に左右されない、自分が好きになる理由がある。(つづく)

新編 日々の絶筆 (平凡社ライブラリー)

新編 日々の絶筆 (平凡社ライブラリー)