中目黒「ambiance」〜ひと手間の分岐点 

 目の前の素材に、どんなひと手間をかけてお客さんの前に差し出すのか。その「切り口」が問われるのは、料理も文章も同じ。そのひと手間に、作り手の力量とセンスが露になる。


 土曜の夜、奥さんの友だちを誘い、3人で中目黒「ambiance」へ出かけた。テーブル席は満席で、カウンタ―も2組。年配の人も交えた家族の会食風から、カップルや夫婦、女性同士と、客層のバランスもいい。
 穴子の焼きテリーヌ?その文字に目が留まった。 
 穴子にパン粉をつけてフライパンでこんがりと焼き、少し甘めの赤ワインソース。それにレンズ豆添え。脂の乗った穴子の濃厚な味が、口の中にひろがる。レンズ豆の甘みが、ほどよくソースと穴子をつないでくれる。穴子をフライパンでこんがり焼く、その意外性が面白い。そんな新たな発見をさせてくれるのが、大平さんの真骨頂。ただ奇をてらえばいいわけではない。素材への的確な洞察力がないと、料理も文章も破綻する。
 それを「焼きテリーヌ」としてプレゼンする着想もふくめて、いい刺激をもらった。


 帰宅後、ネット検索すると、レンズ豆は、アメリカの健康雑誌で韓国のキムチや日本の大豆とともに、世界の5大健康食品に選ばれている。タンパク質とコレステロールを減らす働きがあり、豆類の中でも鉄分が多く、一般的なものの2倍とか。それを割とこってりした穴子に合わせる点がいい。
 メインの栃木県産の霜降り黒毛和牛のローストとフォアグラの赤ボルトソース。その組み合わせはよくある。そこにマッシュポテトではなく、裏ごしした金時芋にバニラビーンズを練りこんだピューレ。お客の口の中に肉やフォアグラの濃厚さとともに、バニラの香りをひろげるためのひと手間。おまかせコース6800円、堪能させていただきました。
 
 そんなに頻繁には通えないけど、また、新しい刺激をもらいにお邪魔します。中目黒駅から徒歩8分、[ambiance」の電話は03−3712−3445。現在発売中の月刊誌「東京カレンダー」でも紹介されています。