大人の時間(1)京都「はれま」のチリメン山椒〜その芳香を味わえる年齢 

rosa412008-02-04

 子供の頃、蓬(よもぎ)や茗荷(みょうが)が苦手だった。
京都府中部にあるオフクロの実家に行くと、茗荷と揚げの味噌汁がよく出てきた。しかも京都の汁物は薄味で、茗荷のあの苦辛さがよりダイレクトに舌を刺し、罰ゲームさながらだった。


 たぶん、ぼくの人生初めての不味(まず)さ。
 周りの大人たちが、その不味い味噌汁を平然とすすっていることも、まるで理解できなかった。お正月につきたてのお餅に、わざわざ蓬をまぶして苦くて不味いものにする理由と同じく、子供には秘境の味覚だった。


 先日、親戚の方から京都「はれま」の、チリメン山椒を送っていただいた。
 炊きたてのご飯にふりかけて口に入れると、花火がはぜるような勢いで山椒の濃厚な芳香がひろがる。それは口の中にとどまらず、さらに鼻へと抜けていった。中華の花山椒をもっと強烈にしたような味と香り。クセになる味だ。パッケージを見ると、賞味期限がわずか2日。

 
 その意味が翌朝わかった。
 開封した際の、あの口の中で花火がはぜるような香りが、すっかり消えうせていた。美味しいのだけれど、あの芳香に一度蹂躙された舌にはまるで物足りない。ぼくは思いつきで納豆に振りかけてみたら、これが相性抜群。見事な奥行きとなり、納豆の旨みに上品なコクをつけてくれた(右上写真)。


 御礼の電話をすると、オジサンは「京都一美味しい、チリメン山椒やぞ」と得意げに言った。温野菜のサラダに振りかけても結構イケるという話を聞いて、彼が舌の肥えた料理人であることがわかった。ただのグルメ自慢には、そういう応用の発想がない


 ネット検索すると、「はれま」のHPが見つかり、三越高島屋でも取り扱われていることがわかった。チリメン山椒にしては高価だが、いわゆるブランド食品と比べれば庶民的な値段。簡素なパッケージと、何のうんちくも見当たらないHPのバランス感覚にも、その実直さが匂う。
 曲がりなりにも、あの蓬や茗荷が味わえる年齢でなかったら、きっとぼくの心はこれほど震えなかった。もし送ってもらわなければ、たぶん一生知らなかった。