名古屋国際女子マラソン〜特別な走者 

 子どもの頃から、野球選手なら長嶋が大好きだった。
 
 たしか最後のシーズンにホームラン30本、打率3割弱で引退した王選手より、打率2割弱で、大きなカーブには決まって三振を繰り返した末に引退した長嶋茂雄だった。ボクシングなら、3回目の王座返り咲きを狙って、リングに大の字に倒れた輪島功一(その後、彼には取材で会って話をきく幸運にもめぐまれた)。いずれも、漫画「明日のジョー」や「巨人の星」世代ゆえのことなのかもしれない。


 人は往生際が悪いというかもしれない。
 だが、競技人生の栄光も挫折も、そのアスリート自身のもの。他人はそれに勝手に一喜一憂する観客でしかない。戦って敗れた人の人生を論評するヒマがあれば、まず自分の人生と取っ組み合えばいい。
 今日のレースも、高橋尚子が早々に脱落したと知って、一気に興味が失せた。それでもレースを投げ出さず、走り終えた高橋の姿にはグッときた。


 今まで誰かのマラソンをテレビ中継で見た後、思わず自分も走り出してしまったのは、彼女しかいない。たぶん、ぼくにとって、そんな走者(ランナー)はもう二度と現れないだろう。