NHK教育 バッハ「マタイ受難曲」〜これって文学やんか! 

 近頃、AccuRadioのクラシカルで、柄にも無くバッハをよく聴いている。
 グレングールドとヨーヨーマ以外、クラシックは苦手だけど、なんか心をシンとさせたいときには、バッハが合う。良く言えば「哀愁のある」、悪く言うと「暗い」旋律がぴったりくる。おれ、暗いの大好き。
 ただ、よく考えると、グールドで好きな「ゴールドベルク変奏曲」や、ヨーヨーマの「無伴奏チェロ組曲」って、どっちもバッハや(^^;)。


 で、今日、テレビでバッハの「マタイ受難曲」を2時間観られるというので、とりあえず「探偵!ナイトスクープ」までのつなぎで観始めたら、結局、0時40分まで2時間ぜんぶ観てしまった。ドイツ人のそれぞれの歌い手が個性的で、演奏もきれい。とりわけ長髪の、恰幅のいい男性の歌いっぷりは、鬼気迫るものがあるというか、完全にイッテる感じ。キリストがゴルゴダの丘へ連れて行かれる場面、彼のアップテンポな独唱とバイオリンのセッションは、今日一番の見どころだった。


 歌詞も面白い。
 ゴルゴダの丘で命果てる直前、キリストが口にする「成し遂げられた」のセリフ。あれはいろんな解釈ができるように、意図的に、あの文脈におかれている。これって文学やんか!
 大衆に「愛」を説いたキリストが、「皇帝以外に王はいらない」と大衆に死を迫られ、そのキリストの死後、同じ大衆が「我々を見守りたまえ」と都合よく哀願し祈りを捧げる不条理。その真っ只中で「成し遂げられた」と繰り返して事切れるキリスト。歌詞と演奏と歌による、そのコントラストの描き方にとても説得力があった。

 今も昔も、大衆は弱いようでしたたかで、冷静かつ狂信的、そして誠実で卑しい。もちろん、おれもそんな大衆の一人やけどね。