「生きていくのがどんどん上手になっていく」と宇多田ヒカルは言う 

 昔、小林秀雄は「質問するとは自分を語ることだ」と語った。
だけど、そのことを自覚できている取材者は、実際とても少ない。自分は上着までしっかり着込んでるくせに、ねほりはほり質問攻めにして相手を裸にしようなんて了見が、そもそも、人としておかしい。


 普通の人間関係でおかしいことを、「仕事だから」という大義名分の下で平然とやっていて、何ら恥じない人(あるいはそういうことをしているという自覚自体がない人)に、自分の心を開いて話す人なんてまずいない。だから大半のインタヴューや、取材記事はつまらなくなる。あるいは、そういう自覚のない人は、相手の立場など少しもおもんばかることなく、ただ刺激的だからとか面白いからという理由で、何でも文字にしてしまったりする。


 先の週末深夜、東京FMを聴いていて、『discode』という知らない番組に変わり、宇多田ヒカルがゲストに出るというのでそのまま聴きつづけた。ところが、これが面白かった。鹿野淳という人は、冒頭の小林秀雄の発言を知っているかどうかはしらないが、インタヴューが誠実でうまい。しかもツッコミが鋭い。


 バックステージテキストをワンクリック後、さらに宇多田ヒカルをクリックすると、その全文が出てくる。宇多田ヒカル自身、とても飾り気のない人だけど、音楽と素の自分について、これほどバランスよく、かつグラマラスに語っている記事を、ぼくは今まで読んだことがない。
 鹿野さんは今まで何度も彼女をインタヴューしているようだけれど、それだけでは、こういうやりとりにはならない。高いレベルでの反射神経と洞察力(批評眼)が不可欠。


「生きていくのが、どんどん上手になっていくんだろうなぁってことを、今実感しています」
 若干25歳で、こんなことがサラッと言えちゃう彼女も、カッコイイんだけどね。