外柔内剛の人 

 

 この仕事をしている間に、なんとかお会いしたいと思っている人が何人かいる。
幸運にも、その中の一人にお会いして、お話を約2時間近くうかがうことができた。ぼくの想像を超えて、とてもチャーミングな65歳の方だった。


 周囲から「名人」と呼ばれる今も、柔和で謙虚、そして思慮深い。
たとえば、私のある質問に対して、「こう言うと、あらかわさんは失望されるかもしれませんが」と、さりげなく前置きされたりする。「いいえ」で始めても少しも構わないのに。些細だからこそ、その気配りにぼくはとても心を揺さぶられた。


 その一方で、毎日200回の腹筋と背筋運動を欠かさない。
「毎年、元旦にどれだけできるか挑戦しているんですよ。今年は休みながらですけど、800回できました。もっともお尻の皮もむけてしまいましたが・・・」
 自分には大甘なくせに、他人の揚げ足取りは得意満面な世相を尻目に、いや、ご本人はそんなこと露ほども思ってらっしゃらないだろうけれど、そうさらりとおっしゃる。
 

 何より、海外でのあるエピソ―ドを語られた際、少し目を赤くうるませながらの子どもっぽい笑顔に、胸をわしづかみにされた。一芸に秀でても奢(おご)ることなく、自らを律することのできる人だからこそのかがやき。
 最後に思わず手を差し出すと、とても力強く握手していただいた。宝石みたいな時間に感謝したい。まだ、あと20年ある。