愛媛・松山を徘徊する(1)〜3000年と61年の狭間をゆらゆらり 

rosa412008-05-12



 誰が言ったか知らないが、約3000年の湯につかる。


 透き通った湯にふわっと全身が包まれる。JR松山駅前から軽いジョグで一度汗をかいていたせいか、すぐに汗が噴き出す。広さ6畳ほどの「霊(たま)の湯」を一人占めするために、朝6時に起きたんだ。たっぷり張った湯船で少し身体を動かすと、すぐに湯があふれる。風にそよぐカーテンのように、湯が排水溝に優雅に流れおちる。そういう微妙な斜度に計算されている気がする。


 念願の道後温泉本館、国の重要文化財でもある木造建築の2階にある浴室は、意外とモダンだった大国主命(おおくにぬしのみこと)や聖徳太子、若き夏目漱石も愛したお湯。そんなことを思いながら、目を閉じる。究極の朝風呂。12日に今治市で仕事を終えて松山入りしての翌日のこと。そうそう、映画「千と千尋の神隠し」に登場する湯宿は、ここがモデルといわれている。



 とくとくと湯口から流れ出る音だけがみちる。単調な湯音に全身をゆだねてみる。しばらくして思い浮かんだのは、なぜか京都・東福寺の方丈庭園と、あの庭の上をゆっくりと雲が流れる光景だった。ゆったりした空間にありながらも、淡々と移ろう湯音や雲の動きが、冷徹に過ぎさっていく時間を感じさせるからだろうか。


 東福寺の、北斗七星の空と、激しく波打つ大海を大胆につなげてみせた枯山水庭園。あの凍れるダイナミズムと、晴天の日をゆったりと進む白雲の動きが心の中でシンクロすると、ちょっとトリップする。自分の時間軸が溶けて、永遠の反復に投げ込まれるような気分が思い出された。


湯もひとも 流れめぐるは 同じみち(BY スチャラカ)
 
 ちなみに、伊予路を2度訪れた小林一茶が詠んだのは、


寝転んで 蝶泊まらせる 外湯哉


 当たり前だが、「寝転んで」が、さすが一茶! 
 右上写真は、松山駅道後温泉を約20分で結ぶ、路面電車内に設置された俳句ポスト。正岡子規を輩出した土地柄らしくていい。