NHK「知るを楽しむ〜荒木経惟<顔がイノチ!>」〜全身目ん玉であること


 全身が燃え盛る目ん玉だった。
全身目ん玉となった荒木が、人妻を相手にシャッターを押し続けていた。「いいねぇ〜」「おおっ、素晴らしいね」と、彼は威勢良く、歯切れ良くモデルに声をかける。その真っ赤な顔からは、汗が滴り落ちている。「そんなに褒められたの初めて」と、少し生活感を漂わせた中年女性が漏らす。出来上がった写真には、撮影前の生活感が吹っ飛び、どこか少女めいた彼女のポートレイトが生まれ落ちていた。


 ヌード撮影を収録するとは、NHKとしてはかなり勇敢な番組 「知るを楽しむ〜荒木経惟<顔がイノチ!>」。だから、カッコイイ。やれやれ〜もっとやれぇ!体裁とか節度なんて、意気地なしの言い訳だ〜い。女性インタヴューワーも、テンポと反射神経よく、荒木にどんどん突っ込んでいく。
「なぜ、荒木さんの前だと、女の人はみんな、セクシーで可愛くなるんですか」
「そりゃ、目で愛撫してるからさ。カメラを通して相手に触れてるからさ」
 フットワークの軽い、率直な質問が、荒木のそんな名台詞をポロッと引き出す。


 荒木さんが、奥さんの故・陽子さんとの新婚旅行を撮影した極私的な写真を私家版として出版したのが、写真家としてのデビューだったとは、わたし恥ずかしながら知りませんでした。
「彼女が俺を写真家にしてくれたんだな」
 それが人であれ風景であれ、荒木の写真が、被写体との間に生み出す濃厚な臭いと親密な距離感。それは、愛する人を時間の流れから切り取ることが出発点だったとはね。


 そりゃ、全身目ん玉で燃えるはずだ。
 その上、このエピソ―ドでは、図らずも大事なことが示されている。表現とは、表現せずにはいられないヤツが、自らの欲求にそれ以上でもそれ以下でもない形を与えたものが、写真集であり、小説だということ。その本質の前では、売れるとか売れないとか、商品になるとかならないといった算段は存在しない。


 だから、荒木の場合も私家版でしかなかった。いや、ありえなかった。その本質を取り違えるようなら、あるいはそれほど切迫した、ヒリヒリと突き上げて止まない欲求がないから、表現などすべきではない。


 さっさと退散すべきだよ、スチャラカ君。