田町ヌースフィア最後の宴〜約5年間、皆様のご愛顧に感謝します 

rosa412008-05-23


 写真は閉店時間間近の、ヌースフィア下階。だが今夜は上・下フロアとも満席で、この時間帯もまだ上階は賑やかだった。そば粉のガレット・放牧豚とリンゴのグリル・マッシュルームとゴルゴンゾーラのピッツア、そしてデザートのロイヤルプディングと極上エスプレッソ。どれもとても美味しかった。そして満席のお客さんたちが、堪らなくありがたかった。今月30日で、田町ヌースフィアは閉店します。


 オーナーの友人を誘って、最後の食事に行ってきた。すると、F社長と、その友人を僕に紹介してくれた知人の方が、偶然いらしていた。もちろん、その方もオーナーで、その方から紹介してもらって、今夜同伴した友人と会い、そのときにこの店の企画書を見せられたのが、僕にとってはすべての始まりだった。だから、この夜の偶然は間違いなくシンクロニシティだ。だって、その3人でヌースのテーブルを囲むのは、今夜が最初で最後だから。


 そしていつもの通り、今夜も談論風発だった。ある外食メ―カ―の刹那的かつ究極の効率経営の実態と、そのトップのチャーミングなエピソ―ドの落差。人が人に惚れる理由。あるいは、外食メ―カ―の両雄の意外な共通点。そしてギリシャの名作「その男ゾルバ」や、稀代の評論家・松岡正剛についてなどなど。


 どれも耳がダンボになり、思わず「ふぉ〜っ」とか「へぇ〜」と漏らしつつ、心にビンビン響いてくる刺激的な話と視点の数々。それらの向こう側に、なぜか物悲しい今の社会の有り様までが立ち昇ってくるという具合。このダイニング・レストランは、美味しい料理だけでなく、こういう会話がオーナー間や、その友人や知人との間に成立する輝きがあった。そんなパリのカフェやサロン文化めいた薫りを、たしかに放っていた。最後は4人で記念撮影をして、店を後にした。たぶん、一生大切にする一枚だな。


 この店の企画書は、こんな感じだった(うろ覚えなので、あくまでもニュアンスです)。

 たとえば、3日でなくなっても惜しくない、50万か100万円をお持ちじゃありませんか。ただし、出資していただいても、一切何のリターンもありません。本当に、そのお金は3日で消えてしまうかもしれません。でも、きっと何かは残るはずです。いいえ、むしろ出資した分だけ、このお店を使って、あなたがやりたいことをどんどん表現してほしいのです。


 普通の人なら、笑っちゃうでしょう。

 でもね、この文章には「自由」という言葉の、権利と義務がとても正しく書かれています。いまどきの大人や若者が使う、義務と責任が欠落した「手前勝手」とふりがなをつけるほか無い「自由」とは雲泥の差があります。もちろん、その自由を実践、あるいは体現できたのか?と問われれば、閉店という事実がある以上、即答はできないんですが・・・。


 ただね、近頃の世知辛い世の中で、こんな奇妙な企画書を面白がって、出資してくる人たちは、きっと面白い人たちにちがいない。当時の僕はそう思いました。


 そして僕の友人や、友人の友人をお招きして、「サタカフェ」というトーク&食事イベントを7、8回やらせていただきました。無い知恵しぼってチラシやポスターをつくり、イベント当日は、汗をかきかき机や椅子を引っ込めたり出したりしながら、文字通りの手作りでした。それが僕たちなりの「自由」の実践だったと思っています。


 どのゲストの方も刺激的で、そしてチャーミングでした。もちろん、集まっていただいたお客さんたちも(サタカフェが、ヌース初来店という方々も多かった)。それは何の形も残ってはいないけれど、僕の心の中にはきちんと残っていて、見えないけれどきっと血や肉になってくれているはずです。


 僕たちの店を、この5年間にわたって支えてくれたお客さんと、社長とスタッフ、そして稚拙な進行の「サタカフェ」にお力添えいただいたゲストとお客さんの皆さん、素敵な出会いを、どうもありがとうございました。