見ているのに、見えていないもの

 

 それは、度の強い眼鏡をかけたような感じ。
 後頭部の安眠をさそうというツボをもんでもらうと、たまに、視力が一瞬だけ良くなったような気がする。あの感覚。あれに似てるけど、もっと驚きが大きい。 


 スポーツ選手の恩師の方と、試合のビデオを一緒に観ていただきながら、お話をうかがうとそんな感じになる。じつに贅沢な時間。同じものを見ているはずなのに、見ていないものが、その方の一言、二言で急に目の前に立ち上がってくるから。そういう点が、スポーツ取材はとても面白い。事前の資料の読み込みや、取材ノート作りは時間がかかる分、そのドキドキ感が大きい。


 いや、スポ―ツに限らなくても、ぼくの日常にも同じようなものは、きっとゴマンとある。欲どおしいぼくは、そういうものが見たい。もっとたくさん驚きたいから。
 今見えているものを、その上っ面だけを騒々しく、いかにどぎつく見せるかに血眼になっている人たちは、それはそれで、好きにやってくれてかまわないから。