インタヴューの神様(1)〜大阪・御堂筋通りでの思い出


 小雨そぼ降る中、ぼくは傘もささずに大阪の御堂筋通りを歩いていた。
 身体は妙に火照っていた。そのくせ、頭は空っぽというか、正直、何も考えられなかった。午後3、4時頃。しばらくして思い浮かんだのはひとつの反省で、考えれみれば、ぼくはいつも取材する側とされる側という地点から仕事を始めることが多かったなと。そこに慣れすぎているから、ダメだったんだと反省癖のあるぼくは思った。だから、ああいう人には敵(かな)わないんだと。


 たしか、28、29歳だった。インタヴューという仕事の面白さが、少しずつわかり始めていて、少なからず自分の適性も感じ始めていた頃だ。あの人への取材が決まってから、自分なりに最初の質問について、いくつかのシミュレーションを重ねた。その結果、「好きな政治家はどなたですか?」に決めた。そこからなら、きちんと答えてくれるかもしれない。いや、さすがにそれなら大丈夫だろうと思った。


 5分、10分、15分と時間が過ぎていく。約束した時間どおりに来るとは、さすがに思ってなかった。だが、20分をすぎると、さすがに参ったなぁという気持ちが湧き上がってくるのを抑えづらい。もうすぐ30分かというときに、突然、事務所のドアが開き、その人が現れた。


「取材の人は、だ、だ、誰やねん?」
 彼はそう言いながら、事務所を見回す。ぼくは努めてにこやかな表情をうかべて立ち上がり、黙って頭を下げた。
「にいちゃんか、悪い悪い。待たせたしもたなぁ」
 テレビで見慣れたように、彼は、右手を顔の前にかざして、2、3度上下に動かしてみせた。(つづく)