原研哉『白』〜白を起点に世界を見る

白


 雑踏の中で好みの女性に目が留まり、ハッとして立ち止まる。
 そんな感じの本に出合った。それは小林秀雄の「花の美しさなどない、美しい花があるだけだ」という一文にも似た書き出しで始まる。「白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ」と。

 
 だから白を探してはいけない。白いと感じる感じ方を探るのだ。白という感受性を探ることによって、僕らは普通の白よりももう少し白に意識を通わせることができるようになる。
(中略)

 
 活字の黒は、文字の黒さではなく、紙の白と一対になって黒い。日の丸が赤いのは、丸の赤さだけではなく、地の白によって赤が輝くのだ。青であれベージュであれ、余白ならば白を内在させている。不在は存在を希求するために時として存在よりも強い存在感がある


 白は感受性である、と題する巻頭の文章を読んだ瞬間、手に抱えていた2冊の文庫本を、平積みされた同書の上に置きざりにして、ぼくはレジに向かっていた。


 以前、六本木ミッドタウンの「21_21デザインサイト」の「水」をテーマにした展示会で、原さんの作品を観たことがある。いわゆる水琴窟を、真っ白なビリヤード台風に(それも極上の洗練さをまとった)置き換えた作品だった。水滴がそこを滑り降りながら穏やかな音を立て、やがて消える。


 折につけ、これから何度も読み返すだろう「空白、もしくは不在からの視座」。そんな一冊と出会えた幸福。