シンプルの強度(2)〜ルオー大回顧展(出光美術館)

 
 白状すると、あまり期待していなかった。あの太い縁取りと、何度も執拗に色を重ねていく画風は、もちろん知ってはいたけどね。


 あとは、小林秀雄ジョルジュ・ルオーについて、短文をいくつか書いていたなぁという程度。昨年行った札幌の三岸好太郎美術館で、その初期作品にルオーのピエロを真似た作品を描いていたことも、少なからず頭にあった。シネスイッチから徒歩圏内だったこともあり、出光美術館に出かけてみたら、これが当った!


 銅版画集で「ミセレーレ」と題するモノクロのシリーズ作品に、グッときた。「ミセレーレ」とは、ラテン語で「憐れみたまえ」という意味。父親の死と第一次世界大戦に触発されて描かれたものらしい。元々、カラーよりモノクロ写真の方が好きな傾向があるので、万人にはオススメできない。うちの奥さんなら、きっと「暗くてヤだ」というだろう(^^;)。


 作品の基調は、少し焦げ茶を混ぜたような、陰鬱な黒のグラデーション。
 たとえば、黒い涙にむせぶかのように見える女の「七つの剣の悲しみを負う聖母」。そのこめかみ辺りにうっすらと光が差している。あるいは、「わが美しの国よ、どこにあるのだ?」では、戦火の町に折り重なる死体の後方にある、細長い二階建てだけが白く発光している。


 それぞれの白、あるいは光に祈りを感じる。それぞれの絵にみなぎる闇と同じくらいの強度の祈り。だから美しい。


 その絵の町が、先の事件がおきた秋葉原とダブって、ぼくには見える。そういえば、下痢ピーで失職した前首相も「美しい国」と唱えていたよね。


 赤い風船ひとつで映画ができるように、光と闇があれば絵はうまれる。要は、いったいどんなものに、どのような光と闇を見つけられるのか、ということ。