人間国宝の「一生懸命」〜四世中村雀右衛門の米寿祝賀パーティ
「米寿を迎えて」と題する、雀右衛門さんの文章がある。
その中で、もっとも目を引くのは以下の部分。
「女形は、六十にならなければ物にならないよ」といわれ、気が遠くなるような思いをしたのを覚えております。しかし、本当には「やっと物になったかと思いましたのは八十の声を聞いてからでした」と報告しなくてはなりません。
歌舞伎の女形の芸、あり方がわかりかけますと、今度は足腰が思うようにならなくなります。芸の道は本当に苦しいものでございます。
すごい世界だなぁと感嘆しつつ、ちょっとホッとする。
だって、45歳で焦ってたりする自分が、ある意味、まだまだガキだよとも読めるから。芸の熟達と体力の衰えのギャップ。その苦味を率直に書かれている点にも、その人柄が薫る。
先週水曜日、ホテルオークラで、雀右衛門さん88歳の誕生パーティにお招きいただいた。昨年、取材させていただいた記事が、彼の後援会長さんなどに好評だったらしい。当日もお付きの方から、「あんなにしゃべられたのには、びっくりしました」と仰っていただいた。ぼくとしては、極端に言葉数の少ないインタヴューだったのだけれど・・・。報道席のテーブルには拙稿のコピーが配られていて、ちょっぴり鼻高々!
ぎっくり腰を患ってらっしゃる雀右衛門さんが、そのスピーチで何度も、「一生懸命」と繰り返されていたことが、何より心に残った。「まだ気力はございますので、足腰を少しずつ訓練いたしまして、また舞台で皆様にお目にかかりたいと思っております」―冒頭の文章はそう結ばれていた。