こんな「いやらしい」は人生初


 けっして値段の高い安いではなく、極上の料理に舌鼓をうつ瞬間、まるで全身を幸福感ですっぽりと包まれたような気分になる。まさに谷崎潤一郎賞にふさわしい、山田詠美著『風味絶佳』の「海の庭」を読みながら、なんどもそんな溜息がもれた。小説の至福に身も心もふんにゃりとして、とろけそうになる。

「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」

 とりわけ、この言葉には卒倒しそうになった。こういう「いやらしい」は生まれて初めて。今のところ、この秋一番の一冊だ。この小説については、全部読んでから改めて書きたい。
 

 せっかくの秋だから、いい小説でも読みなさいと、うちの奥さんに買ってきたんだけど、おれの方が楽しんでる。これでまた、ジコチュウ〜呼ばわりされそうだ。でも、今回発見したんだけど、漢字が苦手な彼女もけっこう小説の本質はしっかり捕まえる能力がある。一冊の本について、二人で話せる秋の温もりと手重り。

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