北野武監督『アキレスと亀』〜何気ない一言で最後に救う手法 

 目もくらむような風呂敷の包み方だった。
 死に向かって生きる覚悟。そんな剥き出しの孤独と虚無感を見すえる北野映画の志は、この作品でもなんら変わっていない。一方で、世界的映画監督に登りつめた今も、それが紙一重の結果にすぎないことを、誰よりも北野本人が熟知している。この作品がそう語っている。


 その点で、この映画の、焼身自殺を企てる自分を作品に描こうとする売れない画家も、その狂気も、世界の「キタノ」の隠喩にちがいない。だからこそ成功や失敗にかかわりなく、ひたすらに自分を信じ切れる者こそが、アキレスにはけっして追いつくことができない亀(勝者)である、というメッセージが生きる。


 唯一、今までの北野映画と違う点もある。
 従来なら焼身自殺を企てて死ぬか、あるいは全身包帯男として死に切れない不様さで終わるところを、何気ない妻の一言で、映画全体を見事に救っている。剥き出しの虚無感と狂気を、色鮮やかな風呂敷で一瞬にして包んでしまうかのような手際だ。こういう文章を書きてぇぇぇ。