山田詠美著『A2Z』(講談社文庫)〜清酒の硬い飲み口の方が癖になる


 けっこう疲れていた。今日は早く寝ようと布団に入って本を読みだす。「うめぇ」「うめぇなぁ」、ぼくはいったい何回そう舌打ちしただろう。すると眠気の代わりに、集中力が全開になり、目が爛々と冴えてきた。しかも滴り落ちる才能の、その活字のシャワーを全身にあびてる感じがたまらなく心地いい。


 アル中って、こんな感じなのかぁと想像する。
 とっとと寝りゃいいくせに、もっともっとと俺が活字をむさぼるみたいに、酒をむさぼり、飲めば飲むほどに目が爛々としてくるのか。先の『風味絶佳』より、もっと奔放で過剰。こっちの方が山田詠美度は高い。前者が吟醸酒なら、後者は清酒ちっく。


 昔、ある友人が日本酒は菊正宗が一番うまい、そう言っていたことの意味が、今ならよくわかる。吟醸酒のサラサラした飲み口より、清酒の硬い飲み口のほうが舌をちくちくと刺す。その痛覚のほうが、絶対癖(くせ)になる(つづく)。


A2Z (講談社文庫)

A2Z (講談社文庫)