福岡伸一『生物と無生物のあいだ』(講談社新書)


 夏炉冬扇。
 だって、「50万部突破」なんて本は、そもそも苦手。
 それでも、爆笑問題の「爆問学問」に出てた福岡さんの話に、ふっと惹かれて読んでみた。普段手にしない理系本というエクスキューズもある。


 この本の、私にとっての肝は2つ。
 まず、成熟ネズミに餌を与える実験結果。餌にふくまれるアミノ酸の約6割は、筋肉ではなく、内蔵や血液など全身のタンパク質の中に組み込まれていたという事実。
 福岡さんは、その事実を踏まえて、こう書く。

身体のありとあらゆる部位、それは臓器や組織だけでなく、一見、固定的な構造に見える骨や歯ですらもその内部では絶え間ない分解と合成が繰り返されている。

 脂肪でさえ、そんな分解と合成を時々刻々反復しているという。


 一見、何の変化のない固体に見える私の身体。
 じつは、その身体は原子レベルでは小川の流れのようにたえず変化している。変化しているにも関わらず、私が時々、多少遠目からそれを「川」と認識するように、固定的なものとして在りつづけてもいる。その現実と視覚との狭間の、にわかには信じられないギャップが面白い。


 かの打撃の神様川上哲治ばりに、誰もが、本来は動いているはずのボールが、止まって見えている!福岡さんはさらに書く。


「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない」(つづく)