福岡伸一『生物と無生物のあいだ』


 前日の文章を踏まえて、このフレーズを読むと、ちょっとシビれる。

エントロピー(乱雑さ)増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。

 この視点は個人、組織のどちらに置き換えて読んでも、実にダイナミック。
 ここで前日の文章に戻ると、ひとつの問いが生まれる。私は無意識に、私の肉体の秩序を守るために、絶え間なくそれを壊しているという。


 福岡さんはそれを「生命の動的平衡」と呼ぶ。だとすれば、その<秩序と変化>に呼応するほど、私は、私の行動や発想を壊そうと努めているのか。・・・うーん、はなはだ疑わしい。


 また、この生命の動的平衡は、欠損にも寛容であることが、別の実験結果から明らかになる。

動的な平衡は、その欠落をできるだけ埋めるようにその平衡点を移動し、調節を行おうとするだろう。そのような緩衝能が、動的平衡というシステムの本質だからである。平衡は、その要素に欠損があれば、それを閉じる方向に移動し、過剰があればそれを吸収する方向に移動する。


 その秩序を守るシステムは、変化を必要としながら、その変化をも飲み込んで無にしてしまう。それは変わろうとして、実際にはたいして変われない自分の正体を、突きつけられているかのようだ。


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)