先達のことば(2)〜60代女性経営者にシビれる

 毎年、バレンタインデーにチョコレートを贈っていただいている方とランチ。新聞には出ない金融業界事情をうかがいたくて、お願いした。少し早いホワイトデーで、和久傳のれんこん菓子「西湖」を持参。
 パリの大学に留学経験があり、今もパリと東京を行き来している方なので、もう話は金融にとどまらず、縦横無尽にひろがっていく。


 プラトンの「観照」(主観を交えず、対象のあるがままの姿を眺めること)から、孔子の「六十にして耳に従う(他人の言葉を素直に聴けるようになる)」といった故事成語から、「アメリカの最大の発明は思想なのよ」といった視点まで、耳が自然とダンボになっていく。普段使わない脳の部分をちくちく刺激されて、心地いい。


 ぼくが見聞きした話を例に「つー」といえば、3倍ほどの「かー」が返ってくる。
この日、もっとも耳に嬉しかったのは、「とにかく手足を動かしていれば、身体は沈まないのよ。そのうち泳ぎだって覚えてしまうから大丈夫よ」。もちろん、彼女のレベルの話と、ぼくのそれは全然違うのだけれど、こういう言葉を聴くと、なんだかホッとさせられる。


 で、この日何度かこう言われた。
「なんか、お仏像みたいな顔になってきてるわよねぇ。いいことよ。お会いできて、よかったわ。お仕事も、きっといい方向に行くわよ」
 日々あくせくしている割には、生活感がないってよく言われるんですけど、そういうことでしょうかと尋ねると、彼女はただ黙って微笑まれた。