中目黒「アンビアンス」〜料理は前へ前へと疾走する
友人2人と、ひさしぶりに中目黒のベルギーフレンチ「ambiance」へ。
前菜で目を引いたのが、フォアグラの揚げ物。チョコレートソースを少し添えて揚げてあるところがミソで、この意外な相性の良さは心地いい発見。それをカナッペに載せてある。あとは、天使の海老を魚と合わせて、伊予柑のソースとトマトのジュレの、2種類の酸味のアンサンブルで食べさせる趣向も、面白い。
デザートも5種類と豊富。「ゆずのコンポジション 四種の調理法」は、カクテルグラスに、ゼリーとシャーベットと後は・・・忘れた。とにかく4層になっていて、それをスプーンですくって一気に食べる。柑橘系なのにグラマラス。面白かったのは、イチゴのミルフィーユに三種の胡椒のカスタードクリームと、杏仁豆腐のアイスクリーム。口の中で胡椒が、いい味出してた。甘いものに、一見ノイズになるような胡椒を合わせて味に奥行きを加えるという発想は、文章でも拝借したいアイデア。
作家の桐島洋子さんが、「凄くおいしい。よく考えたわね」と激賞された一品だという。
6800円のお任せコースを、もう野郎3名で、前菜以外は、いちいち三等分しながら食べて(それぞれ別料理だったため)、じゅうぶん堪能させてもらった。店内で、変なオーラを出してたかもしれません(^^;)。味の組み立てが重層的かつ挑戦的。いい意味で、意欲的に尖がった建築物のようだ。これからの変化が楽しみ。
ということで、「アンビアンスニュース」を転載します。オーナーシェフ、大平史人の料理少年物語です。
もうすぐお花見のシーズンです。私が初めてフランス料理を食べたのもこの季節です。
小さい頃から料理が好きで、よく家族に作っていた記憶があります。小学校三年生のとき日曜の6時に放映していた「お料理天国」という番組を見て、フレンチの料理人なろう!!と決めました。また真っ白なコック服にも憧れていました。
ただテレビでフランス料理を見るばかりで、まだ食べたことも無く、親に鬼のようにせがんで、当時、伊那市に一軒しかないフレンチ「別館だるま」に連れて行ってもらったことがあります。花の兼業農家だったため畑の草むしりとお花の剪定、水仙の出荷を毎日手伝ったら、という約束つきで。
レストランに到着するとあまりの緊張感に何故か鼻水が止まりません。カチコチになりながら中に入るとテレビで見たことがあるような空間が・・・。ぶるぶる震える手で、パピヨンネクタイのサービスのおじ様からメニューをいただきました。フランス料理は、音を立ててはいけないと聞いていたため、また次の動作も分からない為、両親の動きを凝視しながら、とにかく真似るという作業を始めました。
料理は、カボチャのポタージュ、お魚のポワレブールブラン、牛肉のステーキ人参のシャトー。そしてババロアだった気がします。緊張のあまり、一回スプーンをダイナミックに落としてしまい、皆の視線が私のほうへ。一気に青ざめ「終わった・・・」と子供心につぶやきました。
鼻水を垂らしながら、締めくくりのコーヒーで少し平常心を取り戻してきました。するとシェフが厨房から出てきて大平一家の方に向かってくるではありませんか!!「スプーンを落としたからか?怒られるかも!」と、またも青ざめました。万遍の笑顔で、「お味のほうは如何でしたか?」と話しかけてきました。これまた初めて見る、真っ白なコック服の生シェフを見て、感動いたしました!!煌々と光がさして見えたものです。
帰りの車の中で夜桜を見ながら、「お料理天国にでれるようなフランス料理人に絶対なってやる!」と心の中で叫びました。小学校三年生の春でした。帰宅後、熱し覚めやらず私は両親に言いました。
「僕、小学校を辞めて、料理人になりたい!!」
その時、義務教育という言葉を初めて知りました。
その真っ直ぐな軌跡同様、彼の料理もぜひご堪能ください。
「ambiance」HPは、こちらへ。