WBC日韓戦の雌雄が決した瞬間


 審判のストライクアウトの判定に、打席で切れた城島が、バットを打席に捨ておいて背中を向けた。審判が彼の背中ごしに退場を命じる。


 7回表のあの瞬間、すでに勝敗は決していた。
 その一打席で三振したことと、チームが正捕手を失うことの痛出と、それが明日の試合に及ぼす悪影響。そんな簡単な比較さえできないほど、あの瞬間の城島は我を忘れてしまっていた。一戦必勝のゲームで、そんな愚挙を犯してしまうほど、城島も日本チームも、あのとき精神的に追いつめられてた。それが、あの場面に凝縮されていた。


 おそらく、それほど濃密な空気が、あのグランドには立ち込めていたのだろう。
 野球の国際試合とはいえ、それぞれの国の威信を賭けて戦うとは、そういうことなのだと想像するほかない。7回表からお気楽にテレビ観戦を始めたぼくは、なんだか、そんな自分に恥じ入ってしまった。


 自分を見失った方が負ける。シンプルだけど饒舌な現実。やはり、8回裏に満塁から四球押し出しで、4対1となって万事休す。野球って面白い。悔しさより、試合経過の中で選手を通して現われる恐怖心を目の当たりにしたのは、久しぶりだ。


 楽天の野村監督が、城島選手を子供扱いしていた意味がやっとわかった。
 今日の退場で、明日のキューバ戦に城島が出場できるかどうかわからない。だが、この一件を踏まえて、自分を取り戻した彼が、自分の殻をもう一枚脱げるかどうか。WBC観戦の楽しみが、意外な方向にズレ始めたが、それもまた良し。
 ぼくは試合の音声を消し、それを尻目に腕立て伏せなど一連の補強運動を始めた。