康宇政監督ドキュメンタリー映画『小三冶』(ポレポレ東中野で5月2日までモーニングショー公開)

「淡々とした映像から、落語家・小三冶の業が伝わるから不思議だ」
 NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で柳家小三冶を観た後だったので、その新聞評に惹かれた。表現する人間にとって、それ以上の褒(ほ)め言葉はない。


 幕間から高座へあがる落語家を長回しで追う導入部分がいい。
 その棒状に伸びた光と影のコントラストが、映画のコンセプトをも代弁している。名人と呼ばれるようになっても、その光と影の狭間で、自分の寸法と格闘する小三冶が、きちんと描かれている。のべ3年という時間の中で培われた、監督と名人落語家との確かな絆が、淡々とした映像の向こう側に見える。


「人間の寸法」
 小三冶の言葉の中で、それが印象的だった。
上手くやろうとして、どんどん演者としてつまらなくなっていく自分。そんな自分と向き合うとき、彼には、ある少年時代の思い出がよみがえってくる。それが何かは映画館でご覧ください。


 落語家として切磋琢磨して名人と呼ばれるようになってさえ、いまだ超えられない壁。その壁の向こう側に、彼は少年時代の自分を見て、ひとり溜息をつく。まるでロシアの入れ子人形、マトリューシュカみたいな藝術論にも見える。映画『小三冶』、もう一回観たい。