戸田郁子「うっちゃ通信」09年春号(後編)〜共同体意識

rosa412009-04-07



中国は韓国より物価が安い?
 円高ウォン安で、このごろの韓国は日本からの観光客で賑わっています。明洞(ミョンドン)や仁寺洞(インサドン)に出かけると、日本語で「安い、安い」という声が聞こえてくるのですが、韓国で暮らす身にとっては、なにもかも値上がりばかりでため息が出てきます。韓流のおかげで観光産業は潤っているのかもしれませんが、韓国経済は先の見えない不況のトンネルの中にあり、就職難が大きな社会問題になっています。
 中国に出かけたときも、この不況で韓国人留学生や企業家が相次いで韓国に帰国していると聞きました。韓国人経営の商店や食堂も、夜逃げ同然に店をたたむケースが増えているとか。とくに中国製品を韓国に輸入している業者は、大打撃を受けたそうです。


 これまで韓国では「中国は物価が安い」というのが定説だったのですが、ウォン安のため、そうとは言えない状況になってきました。韓国で封切り映画が一本7000ウォン(約500円)、中国では50元(約700円)だったことに、私も驚いています。食費や交通費は中国の方がまだ安いけれど、それ以外のものは決して中国が安いわけではないのです。
 韓国でこんな記事を目にしました。「今は中国人が韓国人の足裏マッサージをしているけれど、もしも中国の改革開放政策が10年早く始まっていたなら、今ごろ韓国人が中国人の足の裏をマッサージしているだろう」と。


 こんな話も聞きます。「日本のサラ金が韓国人相手に金を貸しまくり、中国の大金持ちが韓国の土地を買い漁り、このままでは韓国は、日本と中国の経済植民地になってしまう」
 私は日本の高度経済成長期も経験しているし、韓国に留学したのはソウルオリンピックのころの経済成長期。そして昨年北京オリンピックを終えた中国では今、地方都市でも建設ラッシュで、街の様子がぐんぐん変わっています。
 

 国の経済に力のあるときは、その国の国民も自信感にあふれています。でも不況になると、状況は変わります。好況なときには他者に寛大だった者も、不況になったとたん、自分のことばかり考え始めるものです。韓国政府は今後、外国人の就業者の数を大幅に削ると、さっそく発表しました。
東アジア漢字文化圏にある中国、韓国、日本は、文化面での共同体意識を、早く築くべきでした。しかしそれができなかったのは、それぞれの国の文化人までもが自国の経済論理に左右されてきたからなのでしょう。
 世界的な不況に直面したとき、前世紀にはその突破口を戦争に見いだしました。しかし一人勝ちなどあり得ない今の時代は、互いに共存するためにも共同体意識を強く持つべきだという方向に進んでいかないものだろうかと、私は考えています。


李政美さんの韓国公演と青鶴洞への旅 
 私の大好きな在日コリアン歌手の李政美(いじょんみ)さんの韓国語版CDを、昨年末に図書出版土香で制作しました。何ヶ月にもわたって李政美さんと生みの苦しみを共に乗り越えた今、私は晴れやかな思いで4月のソウル公演の準備に取り組んでいます。日本語でも韓国語でも、同じ重みと同じしなやかさで表現のできる李政美さんが、このCDの発売を記念した公演を行います。
2009年4月17日(金)午後8時より ソウル女性プラザ アートホールポム
(地下鉄1号線 大方駅3番出口) 料金は全席33000ウォンです。 
チケットのお問い合わせは、オフィスとんがらし(電話:03-5670-4585)までどうぞ。
 李政美さんの公演が終わったら、柳銀珪(リュ・ウンギュ)が案内人となって、儒教の伝統を守り続ける村、青鶴洞(チョンハクドン)への旅を企画しています。
韓国南部の霊山、智異山(チリサン)の中腹に位置する青鶴洞には、昔ながらの礼節を大切にしながら暮らす人々が住んでいます。都会の喧噪とかけ離れた静かな村に泊まって、自然の中での暮らしの智恵や哲学を学ぶ時間を持ちたいと思います。


 4月19日(日)午前ソウルを出発し、4月21日(火)午後ソウルに到着します。
青鶴洞に二泊して、礼節や漢文教育を体験し、山菜ナムルの作り方なども習います。夜は、青鶴洞で生まれ育った人々と語り合いましょう。この村を28年間撮り続けている写真家、柳銀珪がご案内します。
ソウル集合・解散で、費用は宿泊・交通費・食費込で、日本円で一人1万円くらいと考えています。あまり時間がないので、是非にと思われる方は、まずソウルまでの航空券を確保して、4月初めまでに戸田あてに連絡ください。


 宗派を越えた尊敬すべき「大人」としてあり続けたカトリックの金寿煥(キム・スファン)枢機卿が、この冬、神に召されました。韓国の民主化闘争と共に歩み、常に貧しい人の側に立ち、「私は馬鹿だ」と言い続けた金枢機卿の清らかさの前に、韓国民だれもが頭を垂れてその死を悼みました。一つの時代が確実に終わりを告げたのです。韓国ではこのごろ、「誠実」という言葉がさかんに強調されます。正直者を嘲笑し、狡い者が得をする風潮を煽ってきたこの社会が、変革の必要性を切実に感じ始めたのでしょう。人は結局、人によって救われるしかないのですから。春の気運が冷たい氷を溶かすように、私たち愚か者たちの心にも、温かい春が巡ってくることを祈りながら……。 웃자(ウッチャ)