野中広務・辛淑玉(シン・スゴ)共著『差別と日本人』(角川oneテーマ21)

 部落出身の、自民党の強面(こわもて)幹事長かつ官房長官経験者と、在日の経営コンサルタントで強力な女性論客。その二人が、「差別と日本人」をテーマに対談する。ハウツーばやりの出版界には珍しい硬派新書企画。ある方からメールで面白かったと教えていただき、一気に読んだ。


 文章って面白い。対談の最後、二人がその出自ゆえに家族にかけた迷惑をポロッとこぼす下りを読んでいて、涙腺がふいに熱くなった。本のあとがきで、野中さんが明かしているが、感極まった辛さんが嗚咽し、つられて野中さんも弱音をこぼした場面だったらしい。本文中にそんなことを臭わせる文章はないが、それまで読んできた者の感情を揺さぶらずにはおかない行間があるせいだろう。


 それから、二人の家族をそんな場所に追いつめた日本人の陰湿さが、なんとも言えないやるせなさとともに、チューインガムのように心にべったりと貼りついた。もちろん、他人事とシラを切るつもりはない。ぼくの中にも誰かを区別したり、差別せずにはおかない卑しさがたえずある。その境目ははなはだ曖昧なままだ。(つづく)


差別と日本人 (角川oneテーマ21 A 100)

差別と日本人 (角川oneテーマ21 A 100)