『ノーモア・ナガサキ』(千代田区一番町プラザ)

 
 ひとつ、温めている書籍企画がある。
 ・・・・・・と書くとなんだか少しカッコイイのだけれど、じつは3社ぐらいから、すでに断られていて、途方に暮れていたりする。だから、かなりカッコ悪い。


 そこまでダメだしを喰らうと、当然考える。この企画を読者の心を打つものにするにはどうすればいいのか、と。もっと別の切り口を考える必要があるのではないか、と。そこで上記の朗読劇を観に出かけた。正直、ヒントのかけらでもつかめたらいいなという、切迫感に突き動かされたといっていい。


 千代田区の平和使節団が長崎を訪れ、原爆の語り部の方から実際に聞いた話をもとに作られた朗読劇。高校生がふとしたきっかけで、原爆投下当日、その直前の長崎にタイムスリップするという、けっこう強引なストーリー。


 観劇無料の舞台は、やはり市民劇団風だったが、演じる側の真摯で誠実な姿勢と想いはきちんと伝わってきた。技術の巧拙とはかかわりなく、何かを強く信じる想いはある程度伝えられる。ダメだしにからっきし弱いオジサンとしては、そのことを教わる、いい機会になった。とてもありがたかった。


 だが、もっともぼくが心を打たれたのは、劇終了後、長崎の語り部の方が舞台に上がられて、感想を口にしようとした瞬間だった。被爆経験者のその男性は、感極まって目を赤くされて無言で口をへの字につぐまれた。一方的に想像するに、その瞬間、忘れてしまいたいような出来事がフラッシュバックされたような部分がおありになったのだろう。


 そんな男性の言葉なき言葉に、ぼくはもっともグッときた。具体的に書かずにして、いかに伝えうるのか。まさに不立文字の世界だった。