ほんとうのこと


 足が止まった。自分の意思とは無関係に身体が走ることを止めてしまった。その瞬間、ああっと思わず声が出て、ふいに仰ぎ見ると、夜空に雲がかかった朧月(おぼろづき)があった。中秋だった。 


 次の瞬間、声も出さずに苦笑させられた。腕時計を見ると、走り始めてからきっかり1時間半だったから。ある意味、じつに正確なガス欠だった。このゴマカシがきかない、実もふたもない感じが好きだ。いろんなことをゴマカシ続けざるをえない年齢になっているから、ここまではっきりと目の前に突きつけられると、笑うしかない。


 トボトボ歩くのは止めて、ウォーキングでつないで、10分後ぐらいに再び走り出す。あいかわらず、頭上の月を覆う雲は途切れずに朧月夜のままだ。
 実もふたもないことと、あいまいなままつづくこと。ほんとうのことは、いつもその狭間にしかない。