謙虚な言葉の使い方


「私の話に一緒に泣き笑いしてくれて、私にはない視点を教えてもらえて良かったです。最初は私が自分で本を書こうと思っていましたが、荒川さんの力をお借りすることに決めました。どうぞ、よろしくお願いします」


 身に余るお言葉をありがとうございます、と言って僕は深々と頭を下げた。60代の方に、都合7時間半ほど話をうかがった後で、こんな言葉がいただけるなんて思ってもみなかった。また涙腺が熱くなりかけた。


 彼の壮絶な人生を思うとき、そんな方から直接お話をうかがえるだけでも光栄なこと。ただのチンピラみたいな男に、そんな謙虚な言葉を差し出せる彼の凄さを改めて感じた。実るほど頭を垂れる稲穂かな、こんなにまぶしい人生のテキストはない。


 彼は来月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演予定。ぼくが毎週観ている番組に登場される方に、お会いできるなんて思いもしなかった。出版社を出た後、最寄り駅まで一緒に歩き、地下鉄の入口で固い握手をしていただいて別れた。階段を下りてゆく彼の背中を見送ってから、もう一度お辞儀をした後、東京駅へ向かう足取りが心なしか軽かった。