NHK総合「立花隆 がん 生と死の謎に挑む」(23日夜)


 がんの正体は半分自分で、半分エイリアン(外敵)。
膀胱がん手術を経験した立花さんが、がんの最前線を取材した末の結論が興味深い。ちょっと、福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』を想起させる。


 人類が多細胞生物へと進化した過程そのものが、がんの発生を内包している。さらに、おびただしい細胞分裂をたえず繰り返しているわたしたちの身体のコピーミスとして、がん因子は発生する。だからその正体の半分は自分で、半分はエイリアン。


 その上、人類の進化過程で、低酸素の状況下でも生き延びてきた強靭な遺伝子が、がん細胞にも同じようにあり、がん細胞が危機に瀕した際にそれを助けるのも、また人間の正常細胞が寄与しているという。ここで、なるほどねと思いうかぶのは抗がん剤のこと。

 抗がん剤ががん細胞だけじゃなく、正常な細胞まで傷めつけてしまうという両義性は、先に書いた、がんが半分自分で、半分エイリアンだという両義性の隠喩でもある。もっといえば、生まれおちたときから死に向かい始める、いのちの両義性を凝縮したものかもしれない。


 だから、「がんと闘う」という表現はかなり変てこりんなんだ。控え目にいって、「がんと向き合う」どまりだろう。人類ががんを制圧するには、あと100年以上かかるらしい。そう知ると、少し肩の力がぬける。
 

 番組の終わりに、鳥取ホスピスにたどり着いた立花さんの結論は、「死ぬ力(ちから)」。それは30年近く、がん患者と向き合ってきたホスピス医の「死も、生も、がんも尊(たっと)い」という言葉に起因している。


 どう生を生き切るのかという個々人の人生観がそこに反映されるからだ。っていうか、あらわになり、ひんむかれ、あばかれるからね。そこで「尊い死や生」をまっとうできるかどうかは、わたしやあなたにゆだねられる。


 それが「死ぬ力」、つまり「死ぬまで生きる力」だという。まるで人生ゲームの「スタートに戻る」式に、その答えはわたしやあなたの日常へと舞い戻ってくる。