強い黒と深い闇(本橋成一写真展『サーカスの時間・第二幕』南青山SPACE「YUI」)

 強い黒。
 サーカスという非日常にきらめくのは光ではなく、むしろ強い黒。モノクロ写真は、その闇と光のコントラストに目が惹きつけられやすい。だが、今回はそれを強くこばむような黒。観る側に「読む」ことを強いる黒だ。


 ステージと、その幕ひとつ裏側にたたずむ踊り子。演技前に鉄カゴの底で静かにたたずむ、オートバイの曲芸乗りの男女。演技を終えてサーカスの闇から出ていく象の、幾重にもシワがよった背中。闇にうかびあがる、10人以上の一輪車乗りたちによる宴(うたげ)と、それを見つめる観客席・・・。本橋成一写真展『サーカスの時間・第二幕』(SPACE「YUI」3月27日で終了)


 日常と非日常の区別が明快だった頃の、それはまだ非日常の闇を楽しめる余裕があった頃の記憶だと気づく。映画館の闇に入ることをおっくうがり、自宅の居間でDVDを観るようになったときから、わたしやあなたが失ってしまったもの。もっといえば、遊ぶことにさえ「効率」を考えてしまうことの致命的な駄目さ。


 気がつくと、職場や教室の日常のあちこちにバーチャルというウソが巣食っていて、そのグズグズの関係に誰もが無自覚だったりする。たとえば、そういったことへの70歳の写真家のきっぱりとした「NO」。その強い黒。