NHK・坂本龍一「スコラ 音楽の学校」

 通奏低音という視点に心惹かれた。
 坂本龍一が司会をつとめる、「スコラ 音楽の学校」第3回のテーマが、バッハの通奏低音だった。ウィキペディアによると、バロック音楽において行われる演奏形態の一つ。低音部の旋律とともに即興的な和音を付け加えて伴奏する演奏形態のこと。


 この番組でも実演していたのが、有名な「G線上のアリア」の通奏低音の低音部分だけを弾くと、まるで曲の印象が違っていて、とても重々しい。ところが逆に、音程の高い和音部分だけを演奏すると、原曲の印象はこちらのほうが近いのだけれど、今度は重厚感に欠けていて、じつに薄っぺらかった。
 さらに面白いのは、この低音部だけをクラシックの演奏者が奏でながら、さまざまな演者がポップな即興的な和音をつけても、じゅうぶんに耳に心地いい旋律になってしまうという事実だった。


 建築でいえば、鉄筋コンクリートでできた基礎。生け花でいえば、花や枝の角度が決められている「真(しん)・副(そえ)・控(ひかえ)」というフォルムに似ている。どんな初心者でも、その決められた角度で花や枝もの3本を活ければ、それなりに生け花っぽく見えてしまう。いわば、空間バランスの黄金比だ。


 文章において、通奏低音の低音部に当たるものは何か。
 どんな遊びを加えても微動だにせず、その文章の厚みや濃くをつくるフォルムみたいなものとは何だろう?書き手が、対象とする人や事象を見る洞察力?あるいは、変幻自在なくせに、書き手の匂いを放つ強固な文体や、文章のリズム?あるいは、書き手の人生観?