「芝蘭」神楽坂店のマーボー豆腐と水餃子

 舌の表や裏側が山椒にコーティングされてしまい、いくら水を飲んでもとれない。
 額や鼻の頭、下まぶたや首の裏側から汗が噴き出し、流れ落ちていく。食事というより、スポーツしているような疲労感だ。
「芝蘭」神楽坂店にランチに出かけた。一方、汁あり坦々麺をたべてる奥さんは、いつもどおりの涼しい顔で、水に一度も口をつけていない。もちろん、辛さはマーボー豆腐のほうが上なのだけれど、同じ人間とは思えない。


 だが、この日、もっともぼくが心を揺さぶられたのは水餃子。
まず、ラー油などの辛い付け汁が少し甘くしてある。なおかつ、水餃子自体は小さなラビオリのようで、ツルリッとしていてグミのようなやわらかな食感。辛いマーボー豆腐にヒイヒイいっている最中だったせいか、この辛甘い味と独特な食感に心惹きつけられた。


 舌全体を山椒の味に取り囲まれるほどの強い辛さ。
 そして水餃子の甘辛な味のアクセント。これらの後だったせいか、口直しに食べた杏仁豆腐を、ことさら甘く感じてしまった感覚。まるで意図しなかった味の展開に、自分の気持ちが引きずり回されているのがおもしろかった。わがままな女の子の奔放な言動に振り回されながらも、どこかワクワクしている感じ、とでもいえばいいか。


 こんな文章って書けないか?