おじさんの林間学校(2)

 うれしい気持ちが、じんわりと全身を駆けめぐった。
 終日、汗と泥まみれになったぼくらの田んぼの周りを、無数の蛍が舞っていた。学生時代、ほたる祭りで有名だった長野県の辰野町で見て以来の、蛍の群れだった。


 トンボや蛇、オタマジャクシにサワガニ、カエルにミミズ、ミズスマシやカナブンなど、「みのれ〜ず」と名付けたぼくらの田んぼで、これまで出会った生き物は数多い。その極めつけが蛍だった。それはいずれも、ぼくをまぶしい子供時代にタイムスリップさせてくれた。


 雑草退治の労をいとわず、無農薬にこだわり、水をきれいに保っていることへの素晴らしいご褒美(ほうび)。かなり手前勝手だが、自然への仲間入りを許されたような気持ちにさえなった。
 ひと働きした後のそよ風が頬に、腕に心地いいように、終日働いた田んぼの蛍だけに喜びもひとしおで、それを仲間たちと共有できたことが、いっそうしあわせな気持ちにしてくれた。


 前日夜の酒の宴とバカ話と雑魚寝。
 炎天下の下での目一杯の作業と泥だらけの作業着。
 そして蛍酔いのとき。思い出に残るひと夏の”林間学校”になった。気がつけば、稲たちはすっかり青年期並みのたくましさを見せている。