建築はどこにあるの?7つのインスタレーション(東京国立近代美術館8月8日まで)

 
 暗い空間に入ると、その天井の中央に小さくて赤い明かりが6列ほど、長さ5mほどまっすぐに並べられて、その光を落としている。そこに薄いベージュ色の布1枚をもって立つ。50センチと25センチ大の布をはためかせたり、投げ上げたりすると、当然、その赤い光が描く線がゆがみ、折れ、曲がり、ふくらむ。
 建築家・内藤廣さんの作品。


 それがどうしたの?
 そう言われてしまうかもしれない。まぁまぁ落ち着いて。これは建築をめぐるインスタレーションなんだからさ。


 インスタレーションとは、室内外にオブジェや装置をおき、作家の意向にそって空間を再構成して変化させ、その場所全体を作品として体験させる芸術のこと。「建築はどこにあるの?」(東京国立近代美術館)展でのこと。


 「線」と「面」という要素に、建築という考え方をギュギュッと凝縮し、それを赤い光線と布の質感に代替させ、展覧会の閲覧者自身が、建築空間を手作りできる場を提供している(はずだ)。


 こういうのにおれは弱い。
 たとえば、故・松田優作が通ったといわれる、大阪のお好み焼き屋さんの優作フェバリットは、モヤシの上に蒸した豚肉が数枚載せられているだけの一品だった。「豚せいろ」と言ったっけ。それは無駄な要素をとことん排した、おそらく究極の「お好み焼き」(のはず)で、たちまち気に入った。味ではなく、その眼力にしびれた。


 この赤い光線と布で見せる「建築」という考え方も、同じ。
 人目もはばからず、おれは嬉々として、その布をしばらくの間、弄(もてあそ)びつづけた。こういう眼力にふれると、ほんの少し、じぶんのあたまもやわらかくなった気がして、うれしい。(つづく)