松久信夫著『出社は月に3日でいい』(東洋経済新報社)

 本の「ヘソ」という言葉を時々使う。
 その本の核心部分ということ。構成をお手伝いしたぼくにとって、この本の「ヘソ」は第5章、とりわけ最初の「『人間は自分が一番かわいい』がすべての出発点」の項。


 喫茶店のカウンターに、松久さんと並んで座ってお話しをうかがいながら、彼が「(平気で社員をリストラするような経営者について)そういう経営者は、本当の意味で、自分を大切にするということが、わかっていないんでしょうなぁ」とポロッと口にされたとき、ぼくは一瞬言葉を失った。
 普通なら、社長が自分の身がかわいいゆえに、経営の苦境時に、社員をリストラすると考えがち。


 ところが、松久さんは、怪訝そうな顔のぼくにこう続けた。
「人間は誰でも自分が一番かわいい、それが本質。それをふまえて経営を考えるなら、社員や取引先、お客様にはけっして迷惑をかけてはいけない。もっと言えば、それらの人たちを大切にすることを、何よりも優先すべき。それが結果として、経営者である自分を大切にすることにつながっていく」


 この視点から、彼なりの「損して得とれ」経営術が展開する。
 ある意味、それは松久さんの「核心」であると同時に、今の世の中がもっとも見失っている「核心」でもある。そう直感した瞬間、これはいい本になる、と確信した。ああ、この本のヘソをやっと見つけたぞ!と。


 工業高校卒、体調を崩された父親の跡をつぎ、弱冠18歳での社長就任。苦労人経営者でもある。WEBカメラを駆使した経営術で、中国に建設中の新工場の手抜き工事を自ら見破るなど、70歳にしてデジタルマインドの高い人でもある。
 最近、仕事で70代の経営者と向き合う機会が多いが、ぼくよりはるかに元気はつらつとしていて驚かされる。
 名古屋市から近い場所に本社があるせいか、名古屋駅周辺の大手書店では堂々の2位ランキングと、地元での出足は好調。元アマゾンのカリスマバイヤーのビジネス書評でも、すでに紹介されている。


出社は月に3日でいい

出社は月に3日でいい