社員寮で食べて、飲んで、踊って


 上海浦東国際空港について、上海森松の工場内にある同社員寮に荷物をおき、すぐさま最寄のカルフール百貨店に出かけた。夫婦で出かけた上海初日が、ペルー料理パーティだったため、同社員の方々とその買出しのためだ。


 外国に行くと、やっぱりスーパーがおもしろい。
 エレベーター前に置かれたコインロッカー(万引き防止用で
売り場に入る前に置かれていて、バッグやポシェット持参の人は、売り場前で止められる)、黄色と赤の中国カラーの紙で貼り出された「1元」や「10元セール」。野菜の値段の安さ(野菜も肉も都内の3分の1程度)、やる気ありそうでなさそうな店員の就労態度・・・・・。
 この日も、レジのところでひと悶着(もんちゃく)あった。まず、ここでは野菜はすべて売り場でまず量り売りして値段を貼りつけてから、レジで他のものと合わせて精算する。ところが、玉ねぎ3個だけが量り売りし忘れていたので、やり直しを命じられた。次に小皿を数えていたレジ女性が、クレームをつけてきた。


「これ、9枚しかないけど大丈夫かい?」(後で現地の日本人社員から確認)
 なんでも、こちらでは偶数が幸運を呼ぶとされていて、食器その他を買う場合は、かならず2の倍数が基本。にもかかわらず、4人で買い物にきた日本人が、9枚なんて半端な枚数を買おうとしているのに、50年配の彼女が確認してきたわけだ。
 実際、女性社員も10枚買うつもりだったから、このツッコミはありがたかったんだけどね。


 で、慌てて小皿を探しにもどる女性社員の背中を見ながら、「もう〜、何やってんのよ!」と声をあげ(てるように見えたのだけど)、レジのあるボタンを半ばヤケ気味にポンと押すと、近くの同僚女性が、レジ女性に「どうしたの?なんかあったの?イライラしちゃダメだよ、人生は短いんだから楽しくいかなきゃさぁ」と(同じくそう言っているような気がしただけで、何の根拠もない)、これまた大声で話しかけている。ふふふっと苦笑するレジ女性。
 アバウトなようで親切、ぞんざいなようできめ細やか、やる気なさそでありそな空気とともに、強くて高らかなエネルギーがそこには撒(ま)き散らされていた。


 先の食堂にもどり2時間ほどでペルー料理が出来上がり、松久信夫社長を囲み、みんな人生初のそれをおいしいおいしいと笑顔で食べ、飲み、さらには女性取締役兼海外事業部長が、いきなりフラメンコ衣装に着替えて2階から降りてきて食堂前のリノリウムの床でフラメンコが始まり、さらにはサルサや盆踊りになり、夕方6時半から始まった宴は深夜0時半までつづいた。「松久さん、ところで、この会社は何のメーカーでしたっけ?」とぼくが途中で尋ねると、フラメンコの写真撮影の手を止め、彼が上体をのけ反らせながら、何も言わずに破顔一笑でこたえてくれた。
 街がはらむエネルギーと鼓動は、そこで生きる人達にそうして伝染し拡がっていく。ちなみに、わたしたち夫婦はその日朝5時起きだったのだけれど、どういうわけか眠気はなかなかやってこなかった。