万博はパビリオンに入るまでがイケる


 ふと振り返ると、わたしたちが並ぶ列の人がキュウリをかじっていた。まずオジサン1人、よく見ると、その斜め後ろのオバサンも、あれれ、その隣で話し込んでいる30代女性の右手にも食べかけのキュウリ・・・、数えると6人の集団が、万博内の日本産業館への列でキュウリを食べていた。
 人気館なら待ち時間が4、5時間はザラだから、お菓子や果物を食べている人はいたけれど、それらの人の中でも、やはりキュウリは異彩をはなっていた。多勢に無勢とはこのことで、ぼくは自分がふいにキュウリ星に紛れ込んでしまったような気持ちにさせられた。


 マイキュウリの人たちのことは、万博へ向かう車の中で案内役の女性社員から聞いていた。万博会場には飲料水類は持って入れない。だから、地方からやってきた農家の人たちは、田畑での水分補給源でもあるキュウリをかじって、水分といくらかの腹持ちと、会場内でジュース類を買うことの余剰コストを抑えようとしている、と。
 

 一石三鳥のマイキュウリだ。
 そういえば、万博入口前に一人、生セロリにかじり付いているオバサン1名がいた。食べるだけでなく、食べられない繊維部分を路上にそのまま吐き出していた。あの苦味がもっとも苦手なわたしには想像もできないが、あのセロリが彼女にとっては一石三鳥の道具だったにちがいない。
「オーーーッ!」
 セロリに気を取られていたら、会場前入口前で歓声とも怒声ともつかない声がわき起こり、背後から唐突に押されてしまう。ビクッとする瞬間だったが、さいわい、誰もケガしたりすることはなかった。
 

 混雑が激しいといわれるサウジアラビア館、あるいは日本や中国館をさけて、ぼくたちは北朝鮮とイランと日本産業館を観て回ったのだけれど、どの展示物より、マイ・キュウリの人たちのほうが、はるかにフォトジェニックだった。