義をまねることから

「彼が渋るからね、アラカワさんは金儲けしようと言ってるんじゃなくて、あなたの理念や志を本という形にして若い人たちに伝えたい、残したいと言ってるんだよって、そう言っておきましたから。そしたら、まんざらでもないようだったよ」
 道路沿いの窓から雨音が聴こえる肌寒い日、この言葉をきいて一気に体温が上がった。70代の社長さんから、こんなことを言っていただいて、一介のルポライターには身に余る。


 ある社長さんの人柄の一端を、わたしはその70代のP社長さんからうかがった。その後、ふいにその社長さんのブログを見つけて読みだしたら、止まらなくなった。
 今年70歳とは思えぬ情熱が、そしてブレることなき理念が滔々とつづられていた。この人の本をつくりたいと思い立ち、Pさんに手紙を送った。それが始まりだった。Pさんご自身も今、火中の栗を拾うような仕事に尽力していらっしゃる。


 今年はくしくも70代の経営者の方々と時間をともに過ごす仕事がつづいた。どの方からも熱くたぎるものが沸々と感じられた。その年齢まで経営トップとして最前線に立っていられるわけだから当然といえば当然だが、やはり確固足る理念とエネルギーの多寡が人を分けるのだ、あらためてそう痛感させられた。


 それをぼくなりに真似て、Pさんにも手紙を書いたら、近々その社長さんと会うので、ぼくの手紙のコピーを手渡して、わたしが知る範囲で、あなたの人となりを伝えるよ、とおっしゃっていただいた。一介のルポライターなど無視したって何の不都合もないのに、だ。


 そして冒頭の電話が、Pさんから今日かかってきた。
 あまりにも有難くて、受話器をもちながらぼくは何度も頭を下げていた。電話を切った後、企画書を練り直さなくちゃと思う半面、彼の懐深さに感激しながら、とりあえずは彼の姿勢を真似ることから始めようと思った。
 相手の年齢や肩書とはかかわりなく、自分なりの礼儀と義(人の守るべき正しい道)をできるかぎり尽くすこと。