友部正人「ひとり no media 映像編」(東中野 Space&Cafeポレポレ坐)
虫眼鏡の人――友部さんの朗読詩と歌を聴いて、そんな言葉がうかんだ。つばめや自分の両足、雨の日や自分の影を、彼は彼だけの虫眼鏡を通してじっと目をこらし、その向こう側に世の中の空気や男と女を、あるいは生きることの宙ぶらりんさを見つける。
「中央線にのって」という思潮社から出ていた詩集を、友達から借りて読んだのは学生時代のこと。30年近く前のことで、この日はじめて30人規模のライブで彼を見て、その歌に耳を澄ました。とりわけ若き日の彼が衝撃をうけたという、ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリングストーン」に彼が歌詞をつけて唄ったのにはグッときた。かっこよかった。
こんな経験ができるなら、年を取ることもまんざら悪いことばかりではない。そう思わせてくれた夜だった。
ただし、オジサンになってわかるようになった歌詞もあれば、あいかわらず飲みこみづらいものもある。ただ、なんでもかんでもわかろうとする必要はない。わからなさを持て余しながらも、それを手放さないことのほうが大切なことも、この歳になってようやくわかってきた。