ロウ・イエ監督『スプリング・フィーバー』(渋谷シネマライズ)

「この国は変わるスピードが早すぎるね」
 上海を車で移動中、上海生まれの63歳の彼はつぶやいた。
その昔、裕福な両親のもとに生まれた彼は、文化大革命で境遇が激変。フランス料理店のボーイとして働いていた頃の収入は、お客からもらうチップもふくめて300元(4800円相当)。当時、大学教授の月収が100元だったという。


 そこから現在の社会主義的資本主義にふたたび代わり、彼は日本への留学をへて、日本企業に勤務している。知的で上品、なおかつ50代前半ぐらいにしか見えない彼の流儀は、とにかくよく笑うこと。おびただしい喜怒哀楽を、そうして笑い飛ばしてきたのかもしれない。
 一度の人生の中で白が黒になり、その黒がふたたび白に変わる。そんな激動の社会を、さいわいにしてぼくは知らない。


 同性愛に身を委ねて傷つけたり傷ついたりする男たちと、それによって傷ついたり傷つけたりする女たちを描いたこの映画を観ながら、ぼくは冒頭の知人の言葉をなかなか溶けない飴みたいに一人反すうしていた。
 日本ではガキ向けに薄っぺらなファンタジーとして描かれることが多いけれど、他者を傷つけずにはおかない暴力装置としての愛が、同性愛という装いをまとうことでより水際だっている。中国にかぎらず、世の中の変化についていけない若者たちはどこにもいるはずで、自由と不自由はひとつの物事の表裏でしかない。故・尾崎豊に似た美青年「ジャン」役の俳優が、そのアンニュイな配役を見事に演じている。