「エッシャーに魅せられた男たち」(2)

 もうひとつ、この本でハッとさせられたのが、あとがきの部分。筆者の野地さんが立ち寄ったニューヨーク近代美術館で出会した光景だ。美術の先生が20人ほどの子供たちに教えていた絵画の鑑賞法。


「さあ、ひとりずつ絵の前に立って。キャンバスから十センチぐらいのところに。そして全身に絵を浴びなさい」
 その一団が立ち去った後、野地さんも同じように絵を浴びてみてこう書く。
「あざやかな色彩は目の前をぐるぐると回り、かすかに絵の具の匂いもかぐことができる。確かに全身が絵に包まれたようになり、その時の気分といえば、体温より一度か二度高い温度のお湯に首まで浸かったかのような、手足を伸ばしたくなる心地良さだった」


 これはぜひ試してみたい。